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Columnコラム

所長コラム

タイの税務調査~日本企業が直面する複雑な税務問題とは?

2014 年 4 月 22 日

今年に入ってから先月までに当社のクライアントも含め若い経営者の方が
2人もお亡くなりになりました。

いずれも40代、50代と脂がのりきり、私とほぼ同年代の方々ばかりです。

焼香をしながらまだ若い遺影を見ていると、結構人生は短いんだなと自分に
置き換えて考えてしまいました。

「先延ばししている事」はないか、「今」何ができるのか、そして「何を残せる」
のか。

今まで自分の仕事や人生を振り返る事は余りありませんでしたが、
「今」自分がいなくなっても悔いが残らないような日常を過ごしていこうと、
改めて思ってしまいました。

 

さて以前タイの税制についてお話したことがありましたが、昨年から当社の支社が
バンコクに進出して以降より詳しいタイの税務・会計情報が入ってくるように
なりました。

今回はタイで日本企業が直面するちょっと「複雑な問題」についてお話しして
いきます。

 

まずタイに進出した日本企業の経理部が最も面食らう問題は「税務調査」です。

タイでは申告書の提出期限から2年間、税務調査官が税務調査をおこなう権限が
あり、これに脱税などの疑いがある場合は最長5年間まで調査期間が延長されます。

継続的に赤字を出していたり、利益率が低い会社は調査対象になる可能性が
高くなります。

タイでは、VAT(日本の消費税)、源泉税(法人間取引にも源泉税があります)
の納付は毎月ですが、期中の税金を納め過ぎたからと言って、還付申告をすると
税務調査を呼んでしまいます。

タイの税法の特徴として、規定の言い回しが曖昧なため税務調査官の裁量の余地が
大きく、税務調査で問題になる点はあらかじめ当局に確認しておくことが大事です。

 

例示を上げると日本の親会社に対するタイの子会社の役務提供(ロイヤリティ含む)
費用が損金とならないケースがあります。

子会社の多くは、親会社へのロイヤリティを計上していると思いますが、
その費用の配賦計算に当たっては、売上高に対する割合だけではなく、
「人員」や「行っているサービスの内容」に照らして適切な配賦基準を算定し、
タイ子会社が享受している利益との関連性を税務調査官に説明しなければ
なりません。

 

税務調査では通常の調査以外に「召喚状を伴う調査」もあります。

この場合、税務調査での納税不足額と同額の加算税が課され、加えて1か月
あたり1.5%相当の延滞税(年間18%!)の対象となります。

さらに「推定課税」といった権限も調査官に与えられています。

これは、申告を怠った場合や、税務調査に非協力的だった場合は、当該年度の
「入金額」か「売上高」のいずれか5%を通常の税金以外に加算するものです。

また、納税額を少なく申告した場合は、正当な税額の2倍の加算税が課されて
しまいます。

いずれにしても日本より税務行政はかなり厳しいのは間違いありません。

 

またタイ子会社へ従業員が出向する時の税務も問題です。

アジア子会社には日本の親会社から「出向」あるいは「出張」の形式で
人を送り込む場合があります。

日本の親会社がアジア子会社に出向者を派遣している場合、出向者にかかる
人件費についてはアジア子会社が現地の給与を支給し、日本の給与額との差額は
日本の親会社が負担していることも多いと思います。

この場合、原則アジアでの給与差額を日本の親会社が負担した金額は
損金計上しますが、税務調査では問題になりがちです。

日本の親会社が給与水準以上に補てんしている場合は、親会社から子会社への
寄付金であると指摘されます。

このため、形式面では契約書で負担関係を明確にし、さらに現地の給与水準に
ついての公的な統計データ等で給与額を厳密に計算しておくなどの配慮も
必要です。

 

日本の親会社の従業員が1年を超えてタイ子会社へ出向している場合、
日本国内では「非居住者」となり国内勤務にかかる給与額のみが日本からの
課税対象となります。

逆に国外勤務にかかる給与については、タイでの課税対象となります。

加えて日本の親会社がタイ子会社に技術者を派遣し、タイ子会社がその技術者の
給料を支払った場合、そのかかった人件費をタイ子会社から日本親会社が
「役務提供」対価として回収しようとした場合、原則日・タイ租税条約では
源泉徴収をしない事となっています。

しかし実務上ではタイ税務当局が、「技術者を派遣しているため何らかの
技術移転が行われれている可能性が高く、ロイヤリティが発生している」
との見解から源泉税を徴収する指導をおこなっているようです。

この場合の源泉税は基本的には日本の外国税額控除の対象とはならないため、
タイと日本の二重課税になってしまいます。

 

解決策としては、タイの税務当局に「事前確認」を行うか、「相互協議の
申し立て」を行うことが可能です。

継続的な取引で、かつ金額も多大となってくる場合は一考の価値があると
思います。

ただ取引金額が少ない中小企業では、ロイヤリティとして源泉税を取る保守的な
取引として、タイ当局と事を荒立てない様にしているようです。

 

いずれにしてもタイに進出してくる日系企業に共通しているのは「タイの経理・
税務の処理は日本よりルーズだろう」という思い込みです。

タイの会計は国際会計基準にコンバージョンされ、資料の保管義務は日本より
はるかに厳しいのが現実です。

領収書一つとってみても、日本の税法では領収書の記載事項より実体に即した
処理が優先されますが、タイの税法ではエビデンスの記載事項が一つでも
欠けていると証票書類として認識されません。

タイは貧富の差が激しいため、タクシー運転手等のタイの個人事業者はほぼ
確定申告をしてはいないようですが、日系企業等の外資及びタイ国内優良法人には
厳しい税務調査が行われています。

 

タイへの進出に関しては日本以上に経理・税務のリスクが多大であり、
時間がかかる(人手がかかる)ことを前提にマネジメントを行うべきでしょう。

不明点・質問等があればご連絡くださいね。